北風と太陽

□第一話
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「…そろそろ教室に戻るか」

昼休みが終わるまであと十分程。移動時間を考えれば、もう動き始めた方がいいだろうと仁王が声をかけると、八月朔日は微かに眉根を寄せた。

「……………………もどるの?」

「…そんなに嫌か」

「…………………空気悪い」


二週間前、夏休みが終わるのと同時に現れた転入生は、学園内に波紋どころか竜巻を発生させた。
少女のように可憐で愛らしい顔立ち(らしい)転入生は、生徒会をはじめ学園内の有名どころを次々と虜にし、いまだに虜を増やし続けているという。

まあ、それだけならば勝手にすればいいと八月朔日達も気にもとめなかっただろう。
だが、それによって学園内はギスギスとした険悪な空気に包まれ、非常に居心地が悪い。神経の細い何人かの生徒は、既に体調を崩して休みがちになっている。

しかも、転入生はこの二週間の間に暴行事件四件、過剰防衛十一件、器物破損三十六件を起こした立派なトラブルメーカーなのだ。頼まれたって近付きたくはない。


さらに――これが一番の問題なのだが――転入生と八月朔日は寮の同室者だった。人気者に囲まれて恨めしいが手出しが出来ない転入生に代わって八月朔日が怒りをぶつけられる………事は幸いなかったが、同情と哀れみが入り混じった視線というのも、好んで集めたいものではない。

あんなのが同室者でご愁傷さま、という訳である。八月朔日が転入生を徹底的に避けているのが分かっているから尚更に。
八月朔日が各親衛隊の隊長だのと知り合いで、妙に顔が広いというのも理由の一つではあるだろうが。



しかし、転入生の存在などとうの昔に忘れ去っていた筈の八月朔日が、何故転入生を徹底的に避ける――つまりは、意識した行動をとっている――のか。

事の起こりは、一週間程前に遡る。



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