北風と太陽
□プロローグ
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一人になった部屋で、煮雪は膝から崩れる様にその場に座り込んだ。先程まで笑みを浮かべていた顔は、しかし今は表情が無く人形めいていた。
視線はグラグラと宙を泳ぎ、定まらない。まるで見えない何かを探しているようでもあった。
「……………なんで…?」
不意に、煮雪の顔が歪んだ。きつく唇を噛む。握り締めた拳が震えた。
グラグラ
ぐらぐら
落ち着きなく視線が揺れた。探している。何かを。
誰かを。
『電話ダヨ! 電話ダヨ!』
静かな室内に間抜けな機械音声が響き、煮雪ははっ、と我に返った。きょろきょろと周りを見回し、自分の状況を確認する。
どれくらいぼうっとしていたのだろう、窓の外は既に真っ暗になっていた。
そこでふと首を傾げる。
(…あれ? 俺、今何考えてたんだっけ…?)
思い出そうとするが、いまだに鳴り続けている機械音声――携帯の着信音に慌てて携帯を開き、電話に出た事で疑問ごと霧消する。
「あ、もしもし? ワリ、電話出んの遅くなって…………ああ、ちょっとぼーっとしててさ………悪かったって! …………うん、……大丈夫だよっ…」
わざわざ電話を掛けてきてくれた心配性の友人に、思わず笑ってしまう。
ああそうだ、大丈夫だ。
こんなに心配してくれる友人がいる。
自分が、嫌われる訳がない。
彼はきっと口ベタで、引っ込み思案な人間なのだ。だから素直に自分と仲良く出来なくて、部屋を出て行ってしまっただけだ。
きっと、そうだ。
だったら俺の方から歩み寄ってやらないと。
可哀想だからな。