北風と太陽

□第一話
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新学期が始まってから早二週間が過ぎた。
九月もなかばとはいえ、まだまだ残暑は厳しい。日差しは容赦なくじりじりとアスファルトを焼き、蝉は惰性的に鳴いていた。

もっとも、校舎・寮ともに全館空調が管理され、一年を通して一定の温度に保たれている。なので快適に過ごす事は出来るのだが、窓を開けたり外に出たりしない限りは季節というものをあまり肌で感じられない。

自分達の置かれている環境が、酷く贅沢で恵まれたモノだとはわかっていても、仁王は何処かさみしさの様なものを感じていた。


「いやぁ、その悩みこそが贅沢だと思うけどな」

東雲は微かに苦笑して、軽い調子で言った。

昼休みの校舎裏の庭は人気が無く、適度な日陰があり風通しも良いので、八月朔日達三人は雨の日以外はよく此処で昼食をとっている。
今日は晴れで空は青く、積雲が夏の名残の様にぽっかりと一つだけ浮かんでいた。

「そうか? そうだな…」

贅沢。
まさに、こうしてだらだらと考えている余裕がある事が贅沢なのだろう。

「……………別にいいんじゃない? 今、感じているのだから」

暑い、けれど夏よりは衰えた日差しを。吹き過ぎる風の涼しさを。蝉の声は減り、時折、一瞬ではあるが静けさが漂う。
感じている。
緩やかに夏から秋へと移る季節の代わり目を。
今。

そうして八月朔日はゆるりと目元を和らげた。


「ああ、」

つられて仁王も笑う。

「それもそうだな」


ほのぼのと二人が笑いあっていると、不意にがしりと肩を掴まれた。見ると東雲が八月朔日と仁王それぞれの肩を掴んでなんだかぷるぷるしていた。

「………お父さんは、」
「「?」」
「二人とも可愛いすぎて、お父さんは心配だ!」

真顔で言った。
仁王は無言で東雲にコブラツイストをきめた。















「…っ、ギブ、ギブギブギブ!!」
「…………DV?」
「何か言ったか? 八月朔日」
「…………………………ナニモ?」
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