短編
□音
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夜の闇に溶けるように、
あたしは真っ黒になった。
ねこねこノクターン
-When I am " " ?-
「こんばんはー、ねこねこさん」
真っ黒なセミショートの髪に、黄色い瞳。
大きく真っ黒な猫耳、真っ黒な短めのワンピース、真っ黒なジャケットという出で立ちの少女が、
「にゃーん」
隣にやってきた、真っ黒な子猫に声を掛けた。
ここは屋根の上。
猫が好んでやってくるから、猫好きな彼女も好んでここにやってくる。
「あたしね、今日やっとこお許しもらって出てこれたにゃ」
猫言葉で、少女は猫に話しかけた。
言葉が通じているのか否か、猫はにゃあ、と一鳴き。
「外出禁止って辛いにゃ。暇なのはいいけど、やっぱり屋根の上が一番だもん」
言う事を聞かなかった罰として外出禁止になっていた彼女は、むくれて猫に愚痴った。
「にゃん」
猫が一鳴きすると、少女は嬉しそうに目を細めた。
「でも今日から、また毎日来れるにゃ」
猫も嬉しそうに、にゃあと鳴いた。
「…あたし、思ったんだけど、友達あんまりいないにゃ」
僅かな沈黙の後、少女は寂しげに切り出した。
猫は聞いているのかいないのか、毛繕いをしている。
「仲間に会っても喧嘩ばっかりしちゃうし、身分が違うから駄目とか、色々条件もある」
猫は相変わらず、毛繕いに忙しい。
「…まあ別に、猫の友達はいっぱいいるからいいんだけど、そうするとさ、」
猫が顔を上げた。
少女は目を逸らして続ける。
「あたしが死んだら、周りはどう思うんだろ」
猫が顔を下ろした。
再び毛繕いに入る。
「悲しむ人、いるかな」
猫は毛繕いを続ける。
「…正直、あたしの仲間たちも、何人か死んじゃってる。仕方ないよ、それが戦いだもん」
猫の動きが止まった。
「で、あたしや他の仲間は、その仲間が死んだ時、誰も悲しまなかった」
猫は反対の手の毛繕いを始めた。
「でもそれはなんか、自分が死んだ時もそうだったらって思うと、悲しいんだ」
猫は毛繕いを続ける。
「ねえ、猫ちゃん」
猫は顔を上げた。
少女と目が合って、少女が微笑んだ。
「あたしは、いつ、死ぬのかな」
魔法が使えるこの世界。
ありがちな勇者が、ありがちな敵を倒す、ありがちな冒険ファンタジー。
敵の部下の少女は、敵にしては類まれな存在で、勇者を戸惑わせてばかり。
だからこそ思う。
敵にはない感情。
死ぬことへの恐怖。興味。
それで彼女は、
夜の闇に、歌うように、
親友の猫に、
静かに、胸を開いた――
nocturne fin.