短編

□不思議のアリスの国。
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 アリスは顔を上げました。
 目の前に、いつの間にか男の子が立っています。
 アリスより、ほんの少し年上そうです。

「君は、どうして泣いているの?」

 男の子は、もう一度、聞きました。

 アリスは黙って、男の子を見上げます。
 真っ黒な瞳を、真っ青な瞳で見つめます。

 しばらく、双方動きませんでした。


「…えと、なんか顔に、ついてる?」

 耐えかねて、男の子が聞きます。
 それでもアリスは喋りません。

「……」

 もうしばらく、男の子は待ちました。

「……」

 もうちょっとだけ。

「……」

 …もう無理。

「なんだか、泣き止んだみたいだし、ぼく、帰るね」

 男の子は、立ち去ろうとしました。
 振り返って、一歩踏み出して、

「待って」

 アリスが呼び止めました。
 男の子の服の裾を掴んで、引っ張ります。

「わわわ、転んじゃうよ。引っ張らないで」

 男の子は大慌てでバランスを持ち直して、アリスの元へ歩み寄りました。

「…ふう。なんだい?」

 アリスは、先程まで泣いていたのが嘘のように、目をらんらんと輝かせていました。

「見つけた。――見つけたわ」

 そんなことを言います。

「ええと、何を?」

 混乱を極める男の子に、アリスはぽつり、

「あなたが、白うさぎさんね?」

 そんなことを、言いました。
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