短編
□不思議のアリスの国。
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アリスは空を見上げました。
青いです。当然です。
どうして来ないのかしら。
彼女の疑問は、やがて怒りへと変わっていきました。
「……もお、」
むくれて膨らんだ頬がへこんで、出てきた言葉が風に乗ります。
「どうして、誰も来ないのよ。アリスはここにいるのに」
うさぎが来なきゃ、何も始まらないじゃない。
うさぎが来れば、お話が始まる。
わたしは主役になれる。
このつまらない世界なんかより、ずっと不思議な、ずっと楽しい世界の主役。
この世界の誰もが体験していないことを、わたしは出来るんだわ。
なのに。
なんで誰も来ないのよ。
なんで誰もいないのよ。
「早くしなさいよ!時計持ってるくせに遅れないでよっ」
アリスの声を聞いているのは、後ろの木と、大きな空と、一面の草原、ただそれだけでした。