短編
□雨の中で、
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無邪気な表情の彼女は、
「でも…わたしは、生きている意味を感じないのです」
そんなことを言って。
「はぁ?ふざけんじゃねえよ!自分勝手に死ぬんじゃねえ!」
オレは、彼女の腕を掴んで引き寄せた。
彼女が、ビルの縁から遠ざかるように。
待てよ。
前もこんな風に、自殺を止めたことがある。
そのときは確か、何て言ったか――
「けれど、私は、大事な人を失ったのです。だから、」
思い出した!
「死んだんだろ、そいつは。…だったら諦めろ!」
「けど…」
「じゃあ、他に作れよ!オレだったら、喜んでお前の“大事な人”とやらになってやるよ!」
急に恥ずかしくなった。
ぼそり、付け足す。
「お前にだって、家族とかいるだろ。…それで、いいじゃんか」
彼女の目が、大きく見開かれた。
傘が滑り落ちる。
あれ?なんか、見覚えが…
この感じ…、
「…ねえ、」
彼女が呟いた。
刹那、記憶が大量に脳内に流れ込む。
あ――、
d・part1 fin.