短編
□雨の中で、
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雨の中で、-d.1-
次の日も、次の日も、次の日も。
彼女はずっと、同じ場所にいた。
晴れだろうが、雨だろうが、雪だろうが、いつも傘を差して、顔を隠して。
「…よう」
「こんにちは」
「…お前、いつまでここにいるんだ?」
「いつまでも、います」
何となく、気になって聞いた。
「名前は?」
「…名乗る、必要がありません」
口調は、いつも通りゆっくり。けど明らかにきっぱり。
彼女は、言い切った。
「…そうだな。オレも、名乗らないし」
ちょっと、残念だけどね。
言葉の外でそう思ったが、外だから彼女は気付かない。
「…今日は、帰ります」
唐突に、彼女は言った。
「あ、そう…じゃあ、また」
だって、何だって言えってんだ。
だろ?
「はい。また、今度会いましょう」
ここで初めて、彼女は笑った。
ころころ、ころころ。
そのまま、彼女は帰っていく。