短編

□雨の中で、
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雨の中で、-c-



「誰を…待ってるんですか?」

「…誰を、待ってるんでしょう?」

 聞いたのはこっちなのに、逆に聞かれてしまった。
 ――待ってるんでしょう?って言われても…

「わかりませんよ、どうしてオレが知ってるんです?」

 オレが困ってそう返すと、彼女は笑った。
 目を隠していた、傘を少し上げる。

 ぱっちりした目、白い肌に、ほんのり赤い頬。
 長い黒髪はふんわりと、彼女の顔の輪郭を覆っている。

「そうですよね。――わたしのこと、知らないですものね」
 彼女はそう言って、鈴を転がしたみたいな笑い方をした。
 ついでにくるっと、傘を回す。
 その動作はひどくゆっくりで、焼きたてのパンくらい、柔らかだった。

 ころころ笑って、ふわふわ動く。
 ――女の子だなあ…
 なんて、つい思ってしまった。

「死神さんを、待ってるのかもしれません」

 不意に彼女が言ったもんだから、少しばかり驚いた。
「なんて…おっしゃいました?」
 オレの言葉に、彼女は笑った。ころころと。

「わたしは…罪を犯してしまいました。とてもとても…重い、罪です」
 ころころ、ころころ。

 ――どういう意味だよ…
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