短編
□雨の中で、
1ページ/11ページ
雨の中で、-c-
「誰を…待ってるんですか?」
「…誰を、待ってるんでしょう?」
聞いたのはこっちなのに、逆に聞かれてしまった。
――待ってるんでしょう?って言われても…
「わかりませんよ、どうしてオレが知ってるんです?」
オレが困ってそう返すと、彼女は笑った。
目を隠していた、傘を少し上げる。
ぱっちりした目、白い肌に、ほんのり赤い頬。
長い黒髪はふんわりと、彼女の顔の輪郭を覆っている。
「そうですよね。――わたしのこと、知らないですものね」
彼女はそう言って、鈴を転がしたみたいな笑い方をした。
ついでにくるっと、傘を回す。
その動作はひどくゆっくりで、焼きたてのパンくらい、柔らかだった。
ころころ笑って、ふわふわ動く。
――女の子だなあ…
なんて、つい思ってしまった。
「死神さんを、待ってるのかもしれません」
不意に彼女が言ったもんだから、少しばかり驚いた。
「なんて…おっしゃいました?」
オレの言葉に、彼女は笑った。ころころと。
「わたしは…罪を犯してしまいました。とてもとても…重い、罪です」
ころころ、ころころ。
――どういう意味だよ…