短編
□記憶の破片(カケラ)
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「おい、」
――?
「大丈夫かよ、顔、真っ蒼だよ」
友人が、チョコレートより、だんぜん冷たい真っ黒な服を着て待っていた。
「ああ、うん。寝不足かな」
言いながら、少し落ち込んだ。
“あの時”の名残などまるでない、どす黒く沈んだ声。
これは誰の声だ?
「そろそろ、行くか」
友人に言われ、確かに今、“あの時”の名残が完全に消えた。
風船が、ぱちんと割れた、そんな感覚で。
冷めきったコーヒーをテーブルに置いて、立ち上がる。
なんだ、自分も真っ黒な服、着てるじゃないの。
「ああ、行こう」
そう言うと、友人は先頭切って歩き出した。
よし、行くか。
まだ、退職前だったのにな。
今日は、
母の、
葬式だ。
【当て字解説】
「見降ろす」
正しくは見下ろす。
「失くなった」
正しくは無くなった、もしくはひらがな表記。
「真っ蒼(まっさお)」
正しくは真っ青。