短編

□ふたぶたぶたふた
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 ぶたがいました。
 目もありません。
 耳もありません。
 鼻もありません。
 ただ一つ、黒い耳みたいな形をした出っ張りがありました。

 ぶたはぶたでも、鍋蓋でした。


「うああああっ!」

 鍋蓋が叫びました。

「どしたよ?」

 相棒の鍋が言います。

「暇だっ!」

「はん、そんな事かい。寝ちまえばいいじゃねえか」

「そんな身も蓋もない言い方するなよ」

「だって身も蓋もねえもん」

「そっか蓋はおれっちだあああっ!」

「とりあえず静まれよ」

 中身がなく蓋も被ってないだけに、鍋はホントに身も蓋もありませんでした。

 そこへ。

「じゃあぼくちゃんがお相手しようか」

「なにぃ貴様はまさか…誰だっけ?」

 ずこー。
 足がないから転けられない鍋たちは、言葉を発して場の空気を転けさせました。

「ぼくちゃんだよぼくちゃん!――もう一匹のぶた!」

 その声に、鍋と鍋蓋を衝撃が走りました。


「落とし蓋かっ!」


「そう!その通り!」

 落とし蓋は喜びました。
 しかし鍋蓋は不満顔です。

「直接料理に触る不衛生なお前なんか見たくもないしィ!」

 なんか鍋蓋生意気な顔です。
 顔ないけど。

「な、なんだってえ?そういうキミこそ料理に直接蓋できないから不便じゃないか!その証拠としてぼくちゃんが生まれたんだからね!」

「な…ううぅ…お、おい鍋!お前はどう思うんだよ!」

 鍋は澄まし顔で、

「どっちも便利ー」

 なんか歌っぽく言いました。

「…おのれぇ!――じゃあお前!どう思うよ!」

 鍋蓋は相棒の裏切りに腹を立て、適当に隣にいた爺さまに声をかけたところ、

「一番はそれがしじゃ」

 と短い返答。

「な…お前…まさか、」

 しかしそこで、鍋、鍋蓋、落とし蓋に衝撃。


「被せ蓋かあぁっ!」





        おしまい

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