短編
□願い
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翌日。
だからまあ、雨は降った。どしゃ降り。
ちと気合入れすぎたかな。
「これで今頃、歩ちゃんは喜んでいるだろうなあ…」
歩ちゃんの笑顔を想像して、僕ってばちょっちにやけちゃった。
一方、歩はちっとも喜んでいなかった。
「残念ねえ。せっかくお父さん帰ってくるのに」
今日、運動会があれば、ちょうど帰ってくる単身赴任の父も見に来れたのだ。
運動会は嫌いだが、家族に見てもらえるならやりがいはあるというものだ。
「はあ…健一くんにあんな事言った罰でも当たったかな…」
歩は、健一がこの事態を招いたとは、露ほどにも思っていなかった。
「はあ…」
だから、校庭がずぶ濡れで予備日の運動会開催が不可能になった、その翌日の月曜日、歩は元気がなかった。
「どうしたの?」
健一が心配そうに聞いてくる。
「うん、実は…」
かくかくしかじか。
「そうだったんだ…」
「うん…」
歩にはいつもの活発さもなく、悲しげに瞳を曇らせた。
沈んだ顔も可愛いじゃねえかコノヤロ。
健一は思ったけど、口が裂けても言えなかった。
「じゃあ、僕がお父さんが運動会に来られるようにしてあげるよ」
代わりに口をついて出たのはそんな言葉。
「え…?」
歩は明らかに怪訝そうな顔をしていた。
「あ、いや、僕、そうやってお願いしとくよ。その――流れ星とかに」
しどろもどろで取り繕ってみると、歩は信じたのか、くすっと笑って、
「ありがとう。お願いね」