かけらことばのおんなのこ
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三時間ほど待ったとき、やまとが唐突に言葉を発した。
「…………」
「やっとこの店の“特質”を全て知ることができましたね、西間さん」
「これで全部なのか?」
「はい。想に招待されるという形での雇用に始まり、各曜日の店長を務める、偽名を使う、そして本名が知られたら解雇。以上が、この店の“ルール”となります」
「知れば知るほど分からないが、この“ルール”って一体なんなんだ? 意味はあるのか?」
「さあ」
「は? あんた、何か知ってる雰囲気だっただろ?」
「さあ?」
首を傾げたやまとを思いきり睨みつけて、俺は口を閉じた。
「おお。怖い」
おどけたようなやまとの声がしたが、話を続ける気にもならず、俺は黙って客が来るのを待つことにした。
驚いたことに、その日は一人たりとも来客がなかった。
* *
十一時までバイト、それから店じまい、帰宅、夕食、風呂、就寝となるとそれなりに寝るのが遅くなる。
火曜日はそのせいで、俺の頭はぼうっとしていた。
授業も集中できないので、頬杖をついてぼんやりとやり過ごす。
―――ノッカを“追い出して”七日が経った。
今、彼女はどこで何をしているんだろうか。
涼太によればブログをやっているらしいから、その気になればすぐにでも近況を知ることはできるのだろう。
しかし何となく勇気がなくて、俺はそれをしていなかった。
やまとに聞いたら、火曜日はひとまず休業日にしているらしい。
新しい店員補充の次第は想によるので、こればかりはやまとも把握していないようだ。
「追い出されたっていうのに、そんなに怒ってなかったみたいだけどな」
―――不思議と清々しい気分よ。このままずるずる店を続けていくのも悪くなかったけど、門出って感じで気持ちの切り替えにはいいのかも。
ノッカはああ言っていたけど、本当にそうだったのだろうか。
そもそも、どうしてノッカはあそこで働こうと思ったのだろう。
知らなかったとはいえ自分が引き金だっただけに、俺の後ろめたさはしばらく消えそうになかった。