かけらことばのおんなのこ

□10
11ページ/13ページ

「こんにちは。初めまして」

 その人物はそう言って、ふわりと微笑む。
 途端に、俺の呼吸が止まった。

 次に言うべき言葉が、出てこない。

「えーと。やまとさん、で良いでしょうか」

「…………」

「…………」

「…………」

「……おーい」

「……ああっ! はい! いやえっと! て、店長はただいま外出中でありまして、そそその、私はバイトをしております者で、つまり―――」

 一気に息を吹き返した俺は、パニックに陥ってそんなようなことを口走る。
 それで、客が吹き出した。

「そんなに緊張しないでくださいよ。わかりました。彼はいないんですね。―――あなたは、お名前は?」

「あ、えっと、お、俺は西間慶太っていいます! 17歳、高校生です!」

「うん。そこまでは聞いてなかったかな」

「はっ! 申し訳ございません!」

「うん……軍隊じゃないから、やめよっか」

 呆れ口調で言いながら、それでも楽しそうに客の人物は目を細めた。
 動きに合わせて、ふんわりとしたセミロングの髪が揺れる。
 そんな光景に惹きつけられて、俺は彼女から目が離せなかった。

「じゃあ、僕はこれで帰ろうかな。やまとさんにお会いしたかったんだけど、いないみたいだし」

「あ、いや、すぐに戻るかと!」

「そうなの? でもいいや。なんかもう、そういう気分じゃなくなっちゃった」

「は、はい?」

「いいのいいの。西間くんは気にしないで。―――じゃあね」

「えっ、ちょっと、」

 俺は急いで彼女を引き止める言葉を探した。
 やまとに何の用だ? お前は誰だ? やまととはどんな関係なんだ?

「お名前、聞いてもいいですか!」

 しかし、口をついて出たのはそんな言葉。
 彼女は振り返って、切なげに眉をひそめた。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ