かけらことばのおんなのこ

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「……は? 俺?」

「ええ。別にどうってことはないでしょう。任せましたよ。では」

 言うなりやまとは踵を返し、颯爽と歩いて出ていった。

「お、おい、待てよ!」

 俺は思わず後を追おうと身を乗り出して、カウンターテーブルに激突する。

「ぐえっ」

 わ、忘れてた。

 するとひょっこりやまとが戻ってきて、

「あ、お店の札、オープンに変えときましたよー」

「…………」

 沈黙。

「えっと……これ一体どんなバイト最終日?」

 答えはない。
 俺は静かに息を吸い込んだ。

「バイトに店任す店長があるかこの職務怠慢ー!」

 そりゃあもちろん、返事はない。



 一体どこまでねぎを買いに行ったのか。
 やまとはそれから一時間が経過しても戻ってこなかった。

 その間に客は一人もなく、ある意味なんの問題もないまま俺は“店長代理”を担っていた。

「暇だ……」

 ただこうなると、正直なところ帰りたい。
 給料につられてバイトを続けた自分を呪いながら、俺は何度目かの欠伸をした。

 カラァン。

 眠たい目をこすって、頬杖をつく。
 羊でも数えようかな、などとどうしようもないことを考えながら、俺は―――。

「ん? 今カラァンって……」

 客が来た?
 俺は慌てて姿勢を正すと、正面に目を向ける。



 そしてそこに、一人の人間を見た。



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