かけらことばのおんなのこ
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文化祭で使う衣装が配られたので、それを持って“あの茶店”に行った。
用意早すぎだろ……絶対に前もって準備してあったんだ。うちのクラスに不穏な闇の組織が成立しているに違いない。
民主主義はいづこ。
そんなわけで俺は新品の執事服というやつに袖を通し、慣れない手つきでリボンタイを結んで、店へと出た。
のれんの奥の部屋は店側と同じくらいの広さで、違う曜日で使われる備品などが雑多に押し込められている。
のれんがかかった扉の脇に、壁際に沿うようにしてキッチンセット一式が置いてあった。
ちなみにロッカーはないので、適当な机の上に私物を置いている。
やまとの店でのアルバイトも三回目。
それなりに手順にも慣れてきたが、その上でひとつだけ厄介なことがあった。
というのもこの店、俺たち店員がカウンターから出られないのだ。
カウンターテーブル代わりの長机が端から端まで詰めて置いてあり、通り抜ける隙間がないせいで、いわゆるフロアと行き来ができない。
テーブル席も用意があるというのに、飲み物を運ぶことができないのだ。
「こんばんは。おや、制服が配られたようですね。お似合いですよ。―――それでは、今日も宜しくお願いします」
店に出ると、先にいたやまとが声を上げた。
「……お願いします。それはいいとして、やまと、ひとつ聞きたいことが」
「なんでしょう」
「カウンターから出られないけど、テーブル席の客はどう対応するんだ?」
「うーん。そんなに混んだことがないので分かりかねます」
「おい」
「まあ、客に取りに来てもらうとか、どうにか乗り越えるとか、奥のお勝手から出て表に回るとか。臨機応変で良いのでは?」
「適当だな」
「適当です」
やまとはそう言って、にっこり笑った。
俺はこれ以上の追求は無駄だと判断し、黙って客を待った。
十分待った。誰も来ない。
三十分経った。まだ来ない。
一時間経った。来ない。
「…………」
二時間経っても、来ないものは来なかった。
「そういえば、ノッカがいなくなりましたね」