かけらことばのおんなのこ
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その日は突然やってきた。
「じゃあな、慶太!」
「おう、涼太。また明日」
挨拶を交わし、俺の目の前を通り過ぎた涼太の鞄――チャックが壊れて口を閉じられていない――から、一冊の雑誌が滑り落ちた。
「お。落としたぞ」
「ん? ああ、サンキュー」
涼太が拾い上げた雑誌を何気なく見やる。
それは、女物のファッション雑誌だった。
「……え、えええええーっ?」
俺は思わず、大声を張り上げた。
「りょ、涼太! お前……」
「ん?」
「そ、そそそそそ、それ…なんだよ! どうして女の雑誌なんか」
「あ、それはだな、」
「なんで落ち着いてんだよ! 見られちゃまずいんじゃないのか? ふ、普通の男なら買わないだろ? 訳分からん!」
「おい。頼むから落ち着いてくれ」
「お前は、俺は、ごくごく普通で平凡な一般男子高校生だとばかり、思って! そ、そういうの持ち歩くような! なんていうか、そのだな!」
「大声を出すなって。恥ずかしい」
涼太に口を塞がれて、俺はようやく落ち着きを取り戻した。
「違うんだよ。俺が興味を持ってんのは女のファッションじゃなくてさ、」
涼太はパラパラと雑誌をめくると、とあるページを開き、俺に差し出してきた。
俺は受け取って、そのページに目を落とす。
「ずっとファンでさ。つい買っちゃうんだよ」
そんな涼太の声はしかし、俺の耳には入らない。
そのページに、目を奪われてしまったのだ。
『ファッションモデル 山岸のどか特集』
そんな見出し付きのその記事に、山岸のどかというモデルの写真が数枚載っている。
秋服を身に纏い、上品な笑みを浮かべたその女性はモデルらしくすらりと高い背に、完璧なプロポーション、爽やかな短い茶髪をしていて――、