かけらことばのおんなのこ

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 腕を組んで、やまとが考え込む。

「想に相談してきますね。僕だけでは、何とも申し上げられませんので」

「はい。お願いします」

「じゃあ、お入りになってお待ち下さい」

 やまとがそう言って、扉を開けたまま店内に消えていった。

 想ー!
 俺は心の中で叫ぶ。
 断れー! 頼むー!

 俺たちは店内に入ると、身近なテーブルに腰をかけた。

「大丈夫だと良いね、慶太」

「……」

 蘭奈が興奮を隠しきれない様子で、そわそわしながら言った。
 俺は別の意味でそわそわしていたので、気を紛らわせるために店内を見回す。

 手前がテーブル席で、奥がカウンターだった。
 カウンターの向こうには酒のボトルが並べられ、一応バーの風体を成していた。

「すごいよねぇ、この店」

 蘭奈が声を上げたので、そちらに向き直った。

「来る度に全然違う雰囲気なんだもん。別の店に来てるみたい」

「ああ。確かにな」

「まあ事実、あなた方は“別の店”に来ているんですけどね」

 そんな声とともに、やまとがのれんの向こうから姿を現した。

「あ、やまとさん。どうでした?」

「大丈夫らしいので、採用させて頂きます。宜しくお願いしますね、西間さん」

 あっさりと言われた事実に、俺は為す術もなく固まった。
 そんな俺をよそに、二人は話を続けていく。

「いつからですか? 時給は? 何時に出勤でしょうか。あと制服は?」

「西間さんさえ宜しければ今日からでも。時給は後ほど、想と話して決めます。学校が終わったら来てくだされば大丈夫です。制服はセミフォーマルなものであれば、何でも」

「今やまとさんが着ているのは? 予備はないんですか?」

 蘭奈の問いに、やまとが言葉に詰まった。

「えっと……予備はありますが、これは……」

「あれ? なにか不都合でも?」

「あ、いや……そうですね、これをお貸ししましょうか。もし学校の方で衣装が決まったら、そちらを着ていただいて構いません」

「分かりました。ありがとうございます!――だってさ慶太。今日どうする?」
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