かけらことばのおんなのこ

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「我ながらナイスアイデア。ついでにこの機会に色々話して距離を縮めておきなよ。一石二鳥じゃん」

 絶対に後者が狙いだろ。

 俺は半ば引きずられるようにして、蘭奈と“あの茶店”に向かった。
 反対する間も与えられなかった。
 ひどい。



『ただいま開店準備中。もう少々お待ち下さい。――らんぷ亭』

 店の入り口にそんな札が下がっていた。
 この間も思ったが、この店名ではバーっていうか、居酒屋じゃないだろうか。

「残念だったな。まだやってないとよ。今日は帰ろっか」

 俺が満面の笑みでそう言って蘭奈を見やると、蘭奈はしかし、

「準備中ってことは、やまとさんいるでしょ」

 けろっとした顔で言い放ち、扉をノックした。

「やまとさーん! 有田蘭奈です! いらっしゃいますかー?」

「お、おいやめろよ。近所迷惑だぞ」

「この騒がしい大都会でなに言ってんの。見苦しいよ。――おーい、やまとさん! もしもーし!」

 出て来るな。出て来るな。
 俺が心の中で懸命に念じていると、扉ががらりと開いた。
 ちくしょう。

「お待たせしました。おや、お揃いで。どうしました?」

「こんにちは、ご無沙汰してます。今日はちょっと、相談したいことがありまして」

「おや。またですか」

「慶太のことなんですけど、」

「またですか……」

「単刀直入に言いますと、こいつをやまとさんのお店で雇ってほしいんです! 一ヶ月限定のアルバイトで!」

「……はい?」

 さすがのやまとも目を剥いた。
 俺は居心地が悪くなって何となく上を仰ぐ。
 屋根裏の小窓から、想が顔を出していた。

「あ」

 目が合うと、すぐに顔を引っ込めてしまった。
 聞かれちゃた。

 俺がそんなことをしている間に、蘭奈が説明を終えていて、やまとは渋い顔をしていた。

「なるほど。しかし……うーん、」
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