かけらことばのおんなのこ

□てぃあらとたいと
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 ティアラは空いている泰都の右手を取って、自らの両手で優しく包み込んだ。

「次もだめだったらさ、またまっくろに塗っちゃえばいいんだよ。そうやって何度失敗したって、何度も作品を“殺して”しまったって、最後が綺麗に終われば、それでいいんだ。……ね?」

 ティアラはにっこりと笑った。
 泰都は無表情でそれを眺める。

 ティアラは繋いだ手に視線を落としたまま、愛おしむような笑みを浮かべて続けた。

「それにさ。失敗しちゃって、黒くしちゃった泰都くんの作品、あたし好きだよ。それまでずうっと優しく優しく描いてたところと、最後に怒りのままに墨で汚したところが対照的でさ。生き物みたいだよ」

「……きちんと仕上げた方に、そういう評価が欲しいんだけど」

「それは学校で貰えるんだからいいじゃん。あたしはそれより、泰都くんが“殺し”ちゃった子たちを慰めてあげたいの」

 ティアラはぷうっと頬を膨らませた。
 泰都の眉間に寄ったしわが少し和らいで、切なそうな表情になる。

「嬉しいけど、おれ、罪悪感が半端ないよ」

「なんでよ。だめだよ。あたしにとってあの子たちは、黒くされて初めて完成品なんだよ。そんなの感じて黒くするのやめられちゃ、困るよ」

「……そのティアラも、君にとってはそれで完成品?」

 泰都がティアラの頭上に目をやった。
 かつて彼女に懇願されて渡した、彼の失敗作の“黒いティアラ”が、彼女の頭上に佇んでいる。

 ティアラがにっこりと笑って、頷いた。

「うん。もちろん」

 泰都がようやく、ほんの少しだけ笑った。

「じゃあ、おれは失敗してもいいから、それを恐れずにさっさと作品を仕上げればいいんだね?」

「そうだよ。何回でも失敗して、一番綺麗なものを作り上げて」

「失敗した作品を力任せに“殺し”ちゃっても、君がいてくれるから安心していいと」

「うん!」

「そりゃ、頼もしいや」

 泰都はそう言って、あはは、と笑った。
 そして紅茶を飲み干して、

「うん。なんだかやる気が出た。ごめんね。突然やってきて、しかも不機嫌で」
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