かけらことばのおんなのこ

□はるせとつくし
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「こんにちは」



「…こんにちは。えっと、」



「月雫です。ご無沙汰してます」

「……ああ、藤名さん」



「ええ。そういえばあなたとは初めてお会いしますね。お初にお目にかかります、春瀬さん」



「初めまして。その節は、お嬢様がお世話になりました」



「いえいえ。懐かしいです。彼女、その後お変わりないですか?」



「ええ。良いことなのか悪いことなのか。ああでも、前より社交的になりました」



「へえ、そうですか。もう五年前ですものね。自分も二十歳になりました」




「……お店は、その後?」



「なくなりましたよ。跡形もありません。あなた方が去ってから、ぱたりと誰も来なくなりまして」



「…そうですか。お嬢様が聞いたら悲しみます」



「あはは、そうかもですね。でも、あんな店なくなった方がいいんです。人が来なくなってホッとしました」



「…そうでしょうね。月雫さん、常々そう仰っていたみたいですし」

「あ、彼女から聞きましたか?」



「ええ」



「そっか…。そうですね、確かによく言っていました。せっかく来てくれた客に、早く帰れもう来るなと、正面きって言ったこともありますからね」



「で、客に歓迎の意志を見せないために『いらっしゃいませ』も『ありがとうございました』も言わなかったんですよね」



「そうです。でも来ちゃったからにはおもてなしを、とは思っていましたから『かしこまりました』とか『おまちどおさま』とか『ごゆっくり』とかは、毎度言うようにしてましたけどね」



「なるほど」

「今ではいい思い出です。久々にみんなに会いたいと思うこともありますけど、でも会っちゃいけない気もして。結局こうして懐かしむに留まっています」



「そうですか。――でも、お嬢様はきっと、いつでも歓迎しますよ」



「あはは、嬉しいです」
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