かけらことばのおんなのこ
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「まあ、勉強だわな。恋愛は二の次じゃないか?」
今だから言うが、これは完全に俺が悪い。
悪気はなかったんだが。
「……わ、分かった。もういい。一人で行くわ」
かつてないほど低く落ち着いた声で、有田が喋った。
これが諸々の出来事の引き金になるなんて、その時は思いもしなかった。
ほんの少し口喧嘩しただけだ、と。
俺も、ひょっとしたら、有田も。
* *
うちのクラスだけ、担任の陰謀で中間テストの結果が公開される。
「西間はうちのクラスのトップ、学年では一位と二点差の二位だ。よくやった!」
正直知りたくなかった事実である。
「きゃー、なにこの人! ちょー格好いいじゃん」
部首を間違えて漢字の書き取りでペケを喰らい二点も失点したことを、ついでにそのとき漢字を書きながら昼食に何を食べるかを考えていた自分を思い出して、
「あー、まじで自分果てろ……いっそ世界が朽ち果てろ……」
などとネガティブワールドを展開しながら教室に戻ると、女子が騒いでいた。
ちなみに俺はトイレに行っていた。
「ちょっと蘭奈! 何でこんな人と知り合いなの?」
「どういう関係よー」
「ていうかこの人モデル?」
雑誌のモデルかなんかの話かと思いきや、知っている名前が聞こえた。
え、有田?
「何ででしょうねー? 羨ましいだろ」
「ちょっと紹介してよ」
「やだ」
「ひどーい」
女子の群の中に有田を見つけた俺は、気になりながらも席に着く。
「あ、次の授業、古典だよね? 教科書忘れたんだった。借りてこないと」
ふと有田はそう言うと、隣のクラス行ってくるわ、と女子友達に告げて教室を出ていった。