かけらことばのおんなのこ

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 こんな言い方、まるで想みたいだ。

「なんとなく、わかった」

 なんとなくここまでわかるものだろうか。

「すごいな、それも。――いや、実はさ、今母さんが声優仲間と家でパーティやってんのよ」

「そう」

「だけど俺、来週から試験あるからさ、勉強したいんだよね」

「家、うるさい?」

「そうなの!母さんもお仲間さんもオバチャンだからさ、盛り上がっちゃって仕方ないみたい」

 喋りながら俺は、いつも通り、想に一番近い席に座った。
 それでも、相変わらず想は見えない。

「かしこまりました」

 いきなり明るく優しげな声で想は言って、のれんの奥に消えた――音がした。

「え、あれ?何が?」

 一体何が“かしこまりました”なのだろうか。
 そう思って奥に向かって問いかけてみたが、反応はなかった。
 仕方なく、じっと座ったまま想の戻りを待つ。

「……」

 いつもより、遅い?

「……、想?」

 少し不安になって呼びかけるも、反応はない。

「……」

 どうするべきか迷ったが、結局椅子に座り直して待った。

「――おまちどうさま」

 ようやく声がして、想が姿を現した。
 今日は髪を下ろして、薄紫色の和服姿だった。

「…想っていつも和服着てるよな。お家柄か?」

 想が草餅とお茶を置くのを見ながら尋ねると、しかし、想は何も言わずに戻っていった。

「おい…、無視かよ」

 そう言って反応を促してみても、無視。

「……まあいいや。いただきます」

 諦めて机の草餅に目を落とす。
 同時に、想の足音が近づいてきた。

「これ、取ってきて、遅くなった」

 言うなり想は、重そうに運んできた機材らしきものを机に置く。
 そして電源コードをどこかに引いていって、戻ってくると、スイッチを押した。
 ぴかっ、と急に視界が明るくなる。
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