かけらことばのおんなのこ

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「やっと、来た」

 店に入った途端、薄暗くて見えない奥の方からそんな声がかかった。

「悪いな。なかなか時間なくて」

「嘘。他の日、行ってる」

「…やっぱ知ってるよな。でもさ、水曜は予定外だったんだぞ」

「有田、わがまま、言った」

「そうそう。試験前にどっかつれてけって、うるさくてうるさくて」

 何で有田の存在を知ってるのかは謎だが、そんなミステリー、この少女の前じゃ珍しいことではない。

「私、いつも、上、いる。声、聞こえる」

「あ…そうだね」

 相も変わらず口に出して言わずとも会話が成り立つが、それももう慣れた。

「にしても、相変わらず暗いな、ここ」

 久々に来た想の店。

 入る前から分かってはいたことだけど、想含め『きびだんご』は何も変わっていなかった。
 看板の虫食いも、薄暗い店内も、人の気配が全くないことも。

 それはそれで俺としてはいいことだが、どうにも俺の目的にはミスマッチだった。

「はあ…」

 柄にもなく、ため息なんてついてみる。

「何」

 レジの奥で、金色の瞳が光った。

「え、いや、何でもない…。なんか、食べたいな。何がある?今日」

「草餅」

「あ、もらう」

「……」

 想が、立ち上がらなかった。

 かしこまりました、も言わない。
 代わりに瞳が、きらりと光った。

「家、どうしたの」

 …え?

「今日、店、来る気なかった。仕方なく来た。違う?」

 …え。

「家、いられない。そうでしょ」

 頭が真っ白になった。
 目の前にいるはずの不思議少女を凝視して、俺はしばらく黙り込む。

 しばらくして、ようやく口を開いた。

「……その、通り。なんで?」
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