かけらことばのおんなのこ
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俺は今、あの茶店の前に立っている。
有田も一緒に。
「ここがあんたの行きつけの店?」
「…まあ、最近のマイブームな」
俺はそう言って、照れ隠しに頬を掻いた。
有田は宇宙人にでも遭遇したかのような顔で、俺と店を交互に見ている。
そりゃ誰だって、仮にも彼氏である存在がこんな怪しげで寂れた店に通っていると知ったら、驚くし呆気にとられるだろう。
「なんていうか、こう…えらくぼろっちいね」
違和感ありすぎだね。
有田は遠慮のえの字もなしに、言いたい放題言った。
「まあな。でもほら、面白そうだろ?」
「えっと…どこが?」
あ、説明忘れてたっけ。
俺は有田に、この店について知りうる限り面白い部分を教えた。
有田は聞き終わると、コーラと間違えて醤油でも飲んだかのような、こっちからしたら爆笑必須の間抜け顔を作る。
笑わなかった俺、偉い。
「な、なんだそのふざけだ店」
「ね?面白そうじゃない?」
有田も、お化け屋敷は得意だった。
だからカップルお決まりのシチュエーションになったことがない。
残念。
「うん。すっごい面白そう」
「じゃあ行ってみようかー」
「おー」
そして高校生にしては珍しい、情熱の欠片もない低温カップルは揃って足を踏み出した。
「いらっしゃいませえ」
「寄ってらっしゃい見てらっしゃい!」
「それ違うでしょー」
「八百屋さんみたいー」
カラァン、と間の抜けた音は今日もしなかった。
代わりに四つ、間の抜けた声がした。
二つは男、二つは女の声。
「おやあ?男女が一対一で入ってきたよー?」
「なになにカップルー?」
「あーちちあちちー」
「……桃、なにそれ?」