かけらことばのおんなのこ

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「ご注文は?」

 言われてみれば、テーブルの上にメニューがある。
 が、開くのが面倒だった俺は、

「プリンパフェ」

 入り口の黒板を思い出して言った。

「かしこまりました。少々お待ちくださーい」

 女性はハキハキとそう言って、のれんを持ち上げて奥へ消えた。

 あ、のれんとレジとレジ机、変わってない。
 想が座っていた辺りを見て、俺は無性に寂しくなった。

 また来てって、言われてたのに。

「お待ちどうさまですー」

 女性が言って戻ってきて、

「コーヒーはサービスです」

 そう言って、テーブルにホットコーヒーの入ったカップと、大きすぎない器に綺麗に盛られたパフェを置いた。

 美味そう。

「いただきます」

「あら、礼儀正しいのね。どうぞどうぞ、召し上がってくださいな」

 女性はそう言って、にい、と笑った。

 明るい茶色に染めた短い髪。
 色素の薄い茶色の瞳に、色の白く綺麗な肌。
 形のいい顔は、化粧などしなくても美人であることを雄弁に物語っていた。
 すらりと背も高く、モデルのような完璧なプロポーション。

 想とは違った、現代風の美女だった。

「あら、なーに。そんなにじろじろ見ないでよ。美しいのは分かってるから」

「……」

 俺が恐らくは相当なアホ面をして固まると、女性は慌てて、

「やだちょっと、そんな引かないでよ。軽い冗談だって」

 そう言った。
 その仕草に『高飛車な女の取り繕い』らしい様子は全くない。
 本当にジョークだったようだ。

「ははは。美しすぎるのも罪よね、って奴ですか」

「そうそう。街とか歩くと男の人の目線が集まるのが辛くって辛くって――」

「ついつい遠回りして自慢げに出歩いちゃうのお。って?」

「…っぶ!ぎゃはは、あんた話分かるわね、面白い!」

 女性は美しいその顔をぐしゃぐしゃに崩して盛大に笑った。
 俺の肩をばしばしと叩きながら、大声で笑い続ける。

 なかなか親しみやすい人だった。

「…気に入った、あんた。常連にしてやるから、また来なさいよ」
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