かけらことばのおんなのこ
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『甘味処 きびだんご』が、なかった。
長屋はある。
が、雰囲気が全く違った。
入り口には赤い庇が取り付けられ、スポットライトがそれを下から照らしている。
扉の脇には洒落た観葉植物が置かれ、その前には小さなキャンバスに乗った黒板。
『あきない中。。。 本日のおすすめ♪プリンパフェ』
黒板に書かれた可愛らしい丸文字を見て、俺は眉をひそめた。
そういえば庇の、ライトが当たっている部分に、店名が書かれている。
『Cafe&Coffee すうぃーとびたー』
「な…な…?」
何で?
きびだんごは?
想は?
明らかに女子向けで、彼女でも連れてこない限り男は敬遠しそうな店を前に、俺はうろたえた。
きびだんごは……潰れたのか?
「…店員に、聞いてみるか…?」
バイトだったら知らないだろうが、店長がいたなら知っているだろう。
「よし…入るか」
俺は辺りを見回して、知り合いがいないことを確かめて、男が一人で入るのは戸惑われる店へ、一歩踏み出した。
カラァン。
あの間の抜けた鐘は変わっていなかった。
鐘の音は、この店の方がしっくり来る。
「いらっしゃいませー」
女性の声がして、俺はそちらを見た。
その際店の様子が目に入って、かなり驚いた。
まず、明るい。
裸電球は消え、傘付きの丸い電球が6つ下がっていた。
そして客が座る長机も、丸テーブルと肘置き付きの洋風な椅子のセットに変わっている。
更に窓はお洒落な街の風景画で塞がれ、駅前の喫茶店のような雰囲気を醸し出している。
「すみません…?客、よね?」
呆然としていた俺に、先ほど声をかけてきた女性が、再びそう声をかけた。
「あ、ああ、すみません。…はい、客です」
「そうよね?――お好きな席へ、どうぞ」
女性はそう言って、テーブルを指した。
話がしやすいようにレジの一番近くを選んで、俺はちょこんと座る。