かけらことばのおんなのこ

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「あ…うーんと、きゃ、客です」

「客、普通、座る。注文する」

「そ、そうっすね…」

 姿の全く見えない少女に冷たく言われ、俺は少し怒りを覚えながらも手近な椅子に座った。

「遠い。近づいて」

 少女が一言。いや、実際は二言か。

「はい…」

 俺は席を3つ前、つまりレジの一番近くへ移動した。

「注文、何」

「じゃ、じゃあ……きびだんご」

 店の名前になるんだから、名物だろ。
 っていうかそれより、メニューがないし。

「あんた、桃太郎?」

「……」

 ジョークなのかもしれないけれど、こうも抑揚のない声で言われたら笑えない。

「きびだんご、無い」

「え!」

 じゃあなんで店名『きびだんご』なんだよ!

「店名、適当」

 少女に言われて、俺はかなりびっくりした。椅子が軋んだ。
 だだだだって、心の中での突っ込みに答えたんだもの!

「え、な、なんでわかったの?」

「何」

 何って言われても…
 どういう意味だよ。

「えっと、だから、何で俺の心中を読めたのって」

「……」

 少女が黙り込んだ。
 レジの奥で、一瞬、何かが光った。

「面白い」

「は?」

「あんた、面白い」

「……」

「普通、客、そうやって言わない。わたし、勝手、説明してる、思ってる」

 何となく、少女の『癖』が分かってきた。
 単語しか言わないのだ。
 助詞とか助動詞とか、接続詞みたいなものをあまり喋らない。

 それを念頭において、それから微妙に変化する声音を踏まえると、今のはたぶん、
『普通の客はそうやって言わない。わたしが勝手に説明してると思ってる』
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