かけらことばのおんなのこ

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「……」

 だが俺は、正直言うとかなり興味をそそられた。

 絶対儲からないだろうに、赤字だろうに、それでもやってる店。
 こんな都会に、根強く残っている歴史的な建造物。
 日の光だって、西日しか当たらないような、ヘンテコな店。

 こういうの、きっと『怖いもの見たさ』って言うんだろう。
 俺、お化け屋敷は得意だ。

「入ってみるか!」

 腕時計を見た。
 11時10分。まだ余裕。

 俺は1歩、足を踏み出した。


 カラァン、と何だか間延びした鐘が、ドアの揺れに合わせて鳴った。

 店内はやっぱり薄暗かった。

 日の光は差さない上に、使っている電球が裸電球なのだ。
 今時こんな電球使っている場所なんて、他にあるんだろうか。

「…ないな」

 俺はポツリと呟くと、薄暗さにようやく慣れてきた目で、店内を窺った。

 入り口真正面の突き当たりに、木製の長テーブルが置いてあり、小さなレジが載っている。
 その前には同じ長テーブルが、レジ机に対して垂直に、3列置かれている。
 テーブルにはそれぞれ背もたれのない丸椅子が各側面に4個ずつ、つまり1テーブル8個ずつ置いてある。
 そこが客の座る場所か。

 俺から見て左右の壁の真ん中には窓もついているが、もちろん日は射さない。
 それどころかマンションの外壁がすぐ近くで、強烈な圧迫感だった。

「胡散臭い…実に胡散臭い」

 正直な感想を呟くと、レジの奥から、

「いきなり、文句…ひどい。――用、何」

 そんな、少女の声がした。

「…へ?」

 喋り方は置いておいて、そこに人がいるなんて、全く気づかなかった。
 慌てて目を凝らしてみても、やっぱりそれらしき人は見えない。

「えっと……どなたですか?どこにいらっしゃるんですか?」

 様子を窺いながら問い掛けると、

「こっち、聞きたい」

 …意味が分からない。

「えっと…」

「あんた、誰」

 少女の声音からは人間味が一切感じられず、機械のような冷徹さだった。
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