お題小説
□華やかなあの子
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「なーなー、知ってる?藤橋って奴のことなんだけど」
「それって、あの地味な藤橋まつりのこと?」
「そう。あいつ、芸能人らしいぜ」
「へえ!全然知らない」
「そりゃそうだ。全然売れてないもん。本人すらその事実を隠す始末だぜ」
「どーりで。パッとしないもんな、実際」
「ああ。なんでデビューしようと思ったんだかね」
「……聞こえてる」
「げっ、ふ、藤橋?」
「いつの間にいたの?」
「……最初から」
「あ、その、なんだ、が、頑張れよな、活動」
「お、応援してるぜ」
「……ありがとう」
そそくさと去っていく男子生徒二人を睨みつけてから、まつりも踵を返した。
藤橋まつり。
その華やかなネーミングとはかけ離れた、華のない女子高校生。
それが彼女だった。
「はあ、やっぱりデビューなんてしなきゃよかったな。これでもスカウトだったのに」
街角でスカウトされた彼女は、事務所にうまい事そそのかされた母親によって、半ば強制的にCMデビュー。
当時はそれなりに“純朴な少女”として注目を集め、その後いくつかドラマにも出演し、バラエティ番組にも呼ばれた。
が、それっきり。
ぱたりと出演依頼も来なくなり、スカウトした立場上事務所もすぐには首を切れず、まつりはその後もだらだらと“芸能人”のレッテルを貼られて生活する羽目になった。
そして七年が経った今でも、そのレッテルだけは健在だった。
「どこで私の記録なんか見つけてくるんだろう…」
今じゃ、事務所のホームページにやっとあるかないかの自分の経歴。
それを、ああいった奴らはどこからか掘り出してくるのだ。
正直、放っておいてほしかった。
共働きの親はまだ帰ってなくて、がらんどうの家でまつりは一人、テレビを見ていた。
机の上には宿題があるけど、取りかかる気力なんてどこにもない。
ぼんやりテレビを見つめていると、やっていたアニメが終わってコマーシャルが流れる。
『こんにちはっ虹原ソラですっ。ソラのニューアルバムが○月×日に――』