お題小説

□てるみい
1ページ/7ページ

 朝と紗夜は、見た目も中身もそっくりだった。
 違いといえば、朝の方が体が弱いこと。

 世間一般では“一卵性双生児”と称される二つの存在。

 だから誰も、彼女たちの見分けなんてつかなかった。
 一人を除いて。


     てるみい


「おまたせー、帰ろうっ」

 声がして振り返ると、紗夜と幼馴染の竜也の姿があった。
 朝は笑顔になって、座っていた本屋の前のベンチから立ち上がる。

「どうだった?面接」

 二人は飛び切りの笑顔で、首を横に振った。

「たぶんね、駄目」

「…そっか」

 朝は残念そうに肩を落としたが、紗夜はあまり気にしていないようだった。

「ま、いいよ。バイトしたかったけど。もう20店落ちてるんだよね。さすがに諦める」

「――じゃ、おれも諦めるかな」

 しばらく二人を黙って見ていた竜也がそう言って微笑んだ。

「ええっ?なんでよ、竜也は働きなって。受かったんだから、今日の面接。…たぶん」

「そうだよ。もったいないよ」

 紗夜と朝が慌てて異論を口にするが、竜也は首を振った。

「どうせなら紗夜と一緒がいいし」

「じゃあ、朝と一緒に働けばいいじゃない。どうせ朝と私、大して変わらないでしょ?」

「おい紗夜、自分でそういうこと言うなよ。――おれは紗夜が世間で、立派に働いてるとこを見てみたい。で、朝みたいに真面目な人が、バイトなんかしてるの見たくない」

 竜也の台詞に、朝も紗夜もきょとんとした。

「……ねえ。竜也ってさ、私と朝の違い、分かるんでしょ?」

「おう」

「……なんで?」

「何でって……」

「それ、私も知りたい。――教えて?」

 朝も入って、同じ顔が二つ、同じ瞳で竜也を見つめた。

「だって……その、ちょこちょこ違うんだよ!いろいろ。説明できねえよ。――なあ?」

 竜也は苦し紛れにそう言って、何故か朝に真顔で同意を求めた。
 そんな竜也を見て、朝は照れくさそうに顔を背ける。

「そうなの…」

 紗夜はそんな二人を、好奇の目で見つめていた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ