お題小説
□"Merry...?"
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「メリークリスマス!」
彼の元気なその声に、
どこか、
懐かしさを覚える自分がいた――
“Merry…?”
その日は、世界が一番ロマンチックなムードに包まれる日。
街は綺麗にライトアップされて光り輝き、楽しげな音楽が鳴り響く。
今日は、クリスマスイブだった。
人々は足早に家に帰り、子どものいる家からは楽しそうな囁きが聞こえる。
そんな中、石上詩歌はただ一人かじかんだ両手を、ポケットに突っ込んで歩いていた。
声をかけるのも憚られるほど、無愛想で、他人を寄せ付けないオーラを放って。
「全く。呑気なものね、普通の家は」
詩歌は呟きながら、不機嫌そうにずんずんと歩を進めた。
そう言うからには、詩歌はいわゆる“普通”の環境にないわけで。
兄弟姉妹との賑やかな夜、家族との和やかな夜、恋人との甘い夜、そのどれもが、彼女には夢のまた夢の存在。
だって、家に帰ったって、誰もいないもの。
いや、一人、いるにはいるけど――
そんな時だった。
「ねー、君…」
“ヤツ”に出会った。
確かに彼女は、三年前まで家族で揃って楽しいクリスマスイブを送っていた。
二歳年下の妹がいて、母がいて、父がいて。
でもそれは、もう壊れた。
三年前、母と妹が事故で死んだから。
対車線のワゴンと正面衝突、飲酒運転していたワゴンの運転手さえ、即死。
居合わせた詩歌は、幸か不幸か、助かった。
ただそうなると、父も詩歌も、その怒りをどうしたものかわからなかった。