お題小説

□星かげ荘 501号室
1ページ/6ページ

 うあー、なんて呻いて、空を見上げてみた。
 広がるオレンジ色は、自分の気持ちとは相反して、ほのかな暖かさがあった。

「あーあ。今日もなかったなあ」

 自分、今年から大学生になるわけですが、家がないのでございます。
 みなしごとかではないけどね。
 一人暮らしがしたいのでございます。うん。

 ところがどっこい、

「ないんだよなあ…いいところ」

 なのでありました。


 翌日。このところ三日連続で通っている不動産に、またも入った。

「ああ、いらっしゃい」

 すっかり顔なじみになった店員さんに、声をかけられる。

 ははは、どーも。
 苦々しく笑うと、適当にあったパンフレットを読んでみることにした。

「……」

 無駄に広い。家賃高い。学校遠い。不便。
 希望の場所は一つもなかった。

「…なにか、いいところありました?」

「……いえ」

 お店としては、やはり同じ人に何度も出入りされたくない。
 いい家がない、なんて誤解されたくないもの。
 だからとっとと決めて引っ越せコノヤロウ。

 とでも言いたげな雰囲気を、顔に貼り付けて店員がやって来た。

 言いたくないけど、嘘ついても仕方ない。
 正直に答えると、店員の顔に明らかに今ひびが入った。きっとムカついてる。
 漫画だったら「ピキッ」って文字が入るだろう。

「そうですか…まあ、時間をかけて決めた方がいいですからね。家ですものね」

 絶対この人自分に言ってる。諭してる。

「で、ですよねー…ち、ちょっと、また考えてきます…」

 居辛くなったので、出ることにした。

「ありがとーござーましたー」

 恨みのこもった、かつ気怠そうな店員の声を背に、店を出た。
 行く当てがなく、ふらふらしてみる。

 ――まずいな。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ