ときふるさと

□粛清す
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「それ以上、余計な口を利くな」

「おお。怖い」

 青砥が大仰に驚いてみせた。
 経時はそんな青砥を睨みつけながら口を開く。

「貴様は一体、何がしたい。俺と弟、どちらにつくのだ」

 経時が言い終わるか終わらないかの内に、青砥が突然間合いを詰めた。
 足速に近づいて、経時の刀が首筋にかかる所に立った。
 経時が目を見開く。

「私の話に飽きたなら、いつでも刀を引いて下され。それ程の覚悟で、私は話しておりますゆえ」

「……気でも違えたか」

「残念ながら正気でございます。そなたは弟の事となると余りに血の気が多い。少し冷静になっては下さらんか」

「は」

「彼の娘は時頼様を襲ったが為にそなたに“粛清”された。弟を憎むなどと言いながら、いえ、真に憎んではおられるのでしょうが、憎みきれてはいない」

「何が言いたい」

「もう少し、家のしがらみから離れなさい。悪い事は言わぬ。弟を想って満たされぬ日々を送っても、そなたの運命は変わらない」

「弟を想う、だと」

「憎もうが愛そうが、想う事に変わりはありませぬゆえ」

「……」

「此度の一件、彼の娘も憐れではあったが、私にはそなたが最も憐れに映った。――真は、彼の娘をどう思っていたのです」

 経時の刀が切っ先を小さく震わせ始めた。
 眉根を寄せて、切なげな表情を浮かべる。

「……救いたかった」

「なにゆえです」

「健気な娘であった。下種な男共に囲まれて生涯を終えるのは、憐れと思った」

「それだけにございますか」

 経時がはっとしたような顔をした。
 青砥は口元には笑みを称えたまま、目だけを細めて経時を見る。

「当ててみせましょう。そなたは彼の娘に、少なからず好意を抱いていた。そして、向こうが己を良く思っている事も察していた」

「……ああ」

「情に流されていたのは、そなたも同じであった」
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