ときふるさと

□粛清す
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 道を歩いていた経時の足元に、突如として一本の矢が突き刺さった。
 己の足の僅かばかり先に突き立った矢を、経時は大して驚くでもなく見下ろす。

「普通に声を掛ける事をいい加減に覚えたらどうだ、青砥」

 視線を矢が飛んできた方向に向けて、経時が言った。
 弓を構えている人物――青砥は口元に笑みを称えて、弓を下ろす。

「よくお気づきで」

「戯け。ずっと後を尾けていたろ。彼の民家での一件も、始終見ていた」

「おや。そこまで気づかれておりましたか。流石です」

「不気味な奴め」

「お褒めの言葉と受け取っておきます」

 経時が短く息を吐いた。
 やれやれと首を振る。

「此度は情報をどうも。どうして仕入れたのか些か疑わしくはあるが、ひとまず助かった」

「お役に立てて光栄です。ですがお答えは出来ませぬ旨、ご了承頂きたい」

「分かっている」

「それにしても、時頼様もいらっしゃると、よくお分かりになりましたね」

 青砥が意地悪く笑みを浮かべた。

「流石は兄弟。以心伝心ですな」

 経時が目を細める。

「戯れ言を抜かすな。貴様が謀ったのだろ」

「いやあ、私はお二方が聞かれた事にただお答えしたまでですよ」

「……」

「それにしても、」

 ふと青砥が真剣な表情になった。

「まさか彼の娘まで殺してしまうとは」

「……」

「そなたと彼の娘、仲が良さそうであったのに」

「少し話をしただけだ。それ以上でも以下でもない」

「時頼様を襲った罪は、そこまで重いと」

「あやつは関係ない」

「嘘を仰いますな。そなたも彼の娘を憐れと思っていた。それが無くなったのはずっと終わりの方、すなわち彼の娘が時頼様に刃を向けてからでしょう」

「貴様!」

 経時が足を踏み込んで刀を抜いた。
 相手を斬りかからんと身構える。
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