ときふるさと

□粛正す
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 とある民家の中に、柄の悪そうな男ばかりが集まって酒盛りをしていた。
 男達は多いに飲み、騒ぎ、喚き、下品な笑い声を立てて盛り上がっていた。

「しっかし、こんな簡単に成功するとはな!」

「腕を狙って、その通りに痛めつけたんだ。命を狙っても上手く行くだろう!」

「革命っつうのは馬鹿に簡単に起こせるもんだなぁ!」

 ひとしきり騒いで、汚い男達は大声で笑った。

 その部屋の隅で、女が一人縮こまって座っていたが、気にするものはいない。
 女は心底嫌そうに顔をしかめ、男達を見るまいとして視線を足元に向けていた。
 そしてそこに酒が盃ごと飛んできて、慌てて立ち上がった。

「ではでは、ここにいる未来の偉人達に、乾杯っ!」

 男の一人が音頭を取って、男達が盃を突き上げた。
 辺りに酒が飛び散る。

 女はため息をついて、新たに座る場所を探して周囲を眺めた。
 そして、

「あ……」

 騒ぎに乗じて、菅笠で人相を隠した人間が一人、入り込んできたのを見た。



「お帰りなさ――、時頼! どうしたの?」

 部屋に戻った時頼の頬に真一文字の傷を認めて、里和は慌てて駆け寄った。

「少し……」

 時頼は里和から目を逸らし、袖で血を乱暴に拭おうとした。
 里和がその腕を掴んで止める。

「手当をさせて。座りなさい」

「……」

「時頼」

 険しい表情のまま、時頼がすとんと腰を下ろした。
 里和がため息をつく。

「分かった」

「何が」

「経時でしょう」

 時頼がばっと振り返った。
 その反応で答えは明白になる。

「なにゆえ……かも明らかね。私の事でしょう」

 里和はそう言って、左手を少し持ち上げた。
 包帯が巻かれ、薄く血が滲む手の甲を見て、時頼が目を細める。
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