ときふるさと

□アヤメル
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 眉間にしわを寄せて、悲痛な表情をして、里和は俯いた。
 時頼はそんな里和を見つめて、ぽつりと呟く。

「…人を殺めるのは、俺だけでいい。それが俺の務めであるし、それで里和が手を下さなくて済むのなら、その方がずっといい」

「……」

 里和はゆっくりと顔を上げた。
 悲痛な色はそのまま残っていたが、それよりももっと深く慈しみの色を持った表情で目の前の少年を見つめて、

「先の話は、なかったことに。――ありがとう、時頼」

「聞き届けていただけて、光栄です」

 時頼は、目の前の少女に、静かに頭を垂れた。



 ――殺める。
 彼女のためならば、喜びさえも携えて。
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