ときふるさと

□冷たい箱
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「その箱に触れてはだめ」

 薄暗い部屋に、凛とした少女の声が静かに響いた。
 少年ははっとして、後ろを振り向く。

「……里和」

 少年が静かに呟くと、名を呼ばれた少女が少し微笑んで、少年の脇へと進んだ。

「…この箱が何か、知りたい?」

 里和は二人の前の大層な台に置かれている、何の装飾もない素朴な木箱を指した。

 少年は黙って頷いた。

「…仕方ないなあ。時頼、悪い子」

「なっ、非道い」

「何故ってこの部屋、本家の者以外の立ち入りを禁じられているのでは?」

「それはっ…その……、申し訳ございません」

 時頼と呼ばれた少年は、落ち込んだ様子で目を伏せる。
 里和はそんな彼を見て、くすっと微笑んだ。

「まあ、私は本家の者なのだから、きっと大丈夫でしょう」

「……恐れ入ります」

 頭を下げた時頼に、里和はくるしゅーない、とおどけて言った。

「ところで、この箱、」

「…はい」

「そなたには、どう映る?」

 里和の問いに、時頼は少し驚いたような表情を見せた。
 しばらく思い悩む仕草を見せた後、ゆっくりと口を開く。

「一見、ただの小さい木箱のようだけれど、」

「けれど?」

「どこか…空恐ろしい心地がする。冷たいというか、何というか」

 里和はそれを聞いて、満足そうに一度頷いた。

「概ね正解」

「というと?」

「この箱はね、昔からの言い伝えなのだけど、」

 里和は一度言葉を切って、時頼に向いた。

「――人の魂を、封じることのできる箱なの」



「……今、なんて」
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