短編
□雨の中で、
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オレの思考を読んだのか、彼女は話し出した。
「わたしには、大事な人がいました。幼なじみの男の子で、大きくなって、わたしたちは付き合っていました」
――こいつ、幼そうに見えて彼氏持ちかよ。
「だけど…もう、あの人はいません。死んでしまったんです。…わたしが、道の向こうにあの人を見つけて、駆け寄ろうとしたせいで…」
彼はわたしを庇って…。
ころころ、ころころ。なんで笑ってるんだ、こいつ。
気付けば、彼女はまた、傘を下げていた。
顎辺りから下しか見えない。
「だから…わたしはここで、罰が下るのを待っています。…いつまでも、いつまでも」
ころころ、ころころ。
やっと気づいた。
彼女のあの笑いは、自嘲を含んでいるのだ、と。
ころころ。乾いた鈴が、今にも割れそうに、ころころと転がる。
そんな、笑いだったのだ。
オレは何となく、聞いた。
「…明日も、」
「はい…?」
「明日も、ここにいますか?」
見守りたい。彼女の行く末を。
c fin.