短編
□性悪フェアリー
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月明かりを受けて、彼女は立っていた。その表情は、妖艶な微笑みを浮かべている。
「――どうする?」
彼女の前には、先刻、彼女に戦いを挑むも全く適わず敗北した相手が座り込んでいた。
「……負けは負けだ。殺したいなら、殺せばいい」
相手の男が、悔しそうに歯噛みしたその隙間から、声を捻り出した。
「そうねー。でも、何だかそれじゃつまらないのよね」
「……」
「よし、決めた。あなた、私の前に跪いて、命乞いなさい」
「は?」
「ただ殺すなんて退屈だし。暇潰しよ。ひーまーつーぶーしっ」
「……」
「せっかく勝ったし、何かやってもらわないと。――王に忠誠を誓う騎士の如く、私を敬愛なさいよ。今すぐ」
「……」
天涯孤独の彼女は、こうするより他に人と交わる術を知らないのだろう。
それにしても、これは……
殺されるよりも、ひどい仕打ちだ。
性悪フェアリー。
(それは美しいだけの危険な妖精)