かけらことばのおんなのこ

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「おまちどうさま」

 程なくして、想が戻ってきた。
 机にどら焼きと緑茶を置いて、

「ごゆっくり」

 にっこり笑って、丁寧に言葉を紡いだ。

「ああ。いただきます」

 俺もそんな想に向かって、笑顔で言葉を返す。
 想は満足そうに頷くと、いつものようにレジの奥に戻って――、いかなかった。

「けーた」

「ん?」

「隣、いい?」

「え? ああ、もちろん」

 俺が頷くと、想は隣の席に腰を下ろして頬杖をつき、こちらをいつもの無表情で見つめてきた。
 ん? なにこの展開。

「えっと、想?」

「なに」

「どうかしたか?」

「別に」

「……」

 最近の彼女はえらく人間味があったから忘れていたが、そうだ。
 想はこんなだった。

「どうかした、けーたの方。違う?」

 俺が驚いて想を見ると、彼女は相変わらず無表情でこちらを見ていた。

「月曜、話、聞いてた。けーた、やまと怒ってた。有田って人のことで。違う?」

「あ、ああ」

「なんで、金曜、来なかったの? 水曜、行く、言ってた」

「それはだな。涼太って言う友達がいてな、そいつに誘われてカラオケ行っちゃったからなんだ。深い理由はないというか」

「ふうん」

 想は短く相づちを打つと、俺から視線を外してぼんやりと壁の方を眺めた。

「ちゃんと、」

「ん?」

「ちゃんと、話して」

「……有田と?」
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