かけらことばのおんなのこ
□はるせとつくし
1ページ/3ページ
「こんにちは」
「…こんにちは。えっと、」
「月雫です。ご無沙汰してます」
「……ああ、藤名さん」
「ええ。そういえばあなたとは初めてお会いしますね。お初にお目にかかります、春瀬さん」
「初めまして。その節は、お嬢様がお世話になりました」
「いえいえ。懐かしいです。彼女、その後お変わりないですか?」
「ええ。良いことなのか悪いことなのか。ああでも、前より社交的になりました」
「へえ、そうですか。もう五年前ですものね。自分も二十歳になりました」
「……お店は、その後?」
「なくなりましたよ。跡形もありません。あなた方が去ってから、ぱたりと誰も来なくなりまして」
「…そうですか。お嬢様が聞いたら悲しみます」
「あはは、そうかもですね。でも、あんな店なくなった方がいいんです。人が来なくなってホッとしました」
「…そうでしょうね。月雫さん、常々そう仰っていたみたいですし」
「あ、彼女から聞きましたか?」
「ええ」
「そっか…。そうですね、確かによく言っていました。せっかく来てくれた客に、早く帰れもう来るなと、正面きって言ったこともありますからね」
「で、客に歓迎の意志を見せないために『いらっしゃいませ』も『ありがとうございました』も言わなかったんですよね」
「そうです。でも来ちゃったからにはおもてなしを、とは思っていましたから『かしこまりました』とか『おまちどおさま』とか『ごゆっくり』とかは、毎度言うようにしてましたけどね」
「なるほど」
「今ではいい思い出です。久々にみんなに会いたいと思うこともありますけど、でも会っちゃいけない気もして。結局こうして懐かしむに留まっています」
「そうですか。――でも、お嬢様はきっと、いつでも歓迎しますよ」
「あはは、嬉しいです」