かけらことばのおんなのこ
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その日、祖父の家に行くことにしたのは、総合の課題で自分史を作るからだ。
俺は今じゃ家族でアパート住まいだが、生まれたのは祖父の家なのだ。
高校生にもなって自分史などおかしいとは思うけど。
「あちぃ…」
祖父自身はえらい古風なのに、家は割と都会にある。
アスファルトジャングル、車に人の波…暑くないわけがない。
出かけるときに着ていたジャケットは既に鞄にしまわれ、長かったジーパンも5段に折り畳まれて膝丈になっている。
交差点で信号が赤なので止まって、俺はふと腕時計を見た。
11時。
祖父と約束した12時まで、まだ一時間もある。
約束は守りたいタチなので、まだ家には行きたくない。
かといってこの辺の地理には明るくないから、時間を潰せるような店なんかも知らない。
けどこの炎天下の中、外で待つのも御免こうむりたい。
さて、どうしたもんだか。
「むむむ…」
俺は迷った挙句、とりあえず信号が青になったので道を渡ることにした。
* *
その妙な店を見つけたのは、それから5分ほど歩いたときだった。
何も考えずに、ひとまず祖父の家の方向に向かって歩いていたので、最寄駅から祖父の家までのルートの途中にあることはわかる。
が、明確にどこなのかは分からない。
とにかく、ヘンテコな店だった。
まず、立地。
両脇は20階はあるだろうか、超高層、かつ真新しいマンション。
次に、環境。
道路を渡った真向かいにコンビニがある。
その右隣は、何とかっていうカフェ。
この間テレビで紹介されてた。クラスの女子も行きたがってる奴多い。
コンビニの左隣は、ファストフード店。
更にファストフード店の脇の道を入れば、商店街。
…便利すぎるにも程がある。
そんな中にその店は、ちんまりと佇んでいた。
見た目は郷土博物館にでもありそうな、古風な家。
長屋とか言ったっけ?そんな見た目。
もちろん一階建て。
脇のマンションがやたら高く見えるのはそのせいだろうか。あながち外れてないはず。
そして入る気も失せるほど汚い木製の看板に、ミミズがのたうちまわったような字で、
『甘味処 きびだんご』
そう書かれていた。
…のだと思うが、『ご』の字の半分くらいは虫食いにやられている。