お題小説

□プリンな話
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 寝ていた。

「よし、リューを起こして聞くか」

「アルマ…“君子危うきに近寄らず”って知ってる?」

「知らん」

 そうしてアルマはリューの元へ近寄っていく。
 ユファは“ああ、あいつ、すっとぼけてるな”と思いながら、しかし何も言わなかった。

「起きろ!リュー!お前をプリン盗み食い容疑で逮捕する!」

「くー…」

 リュー無視。
 アルマはもう一度繰り返した。

「くー…」

「リュー!起きろ!おま――」


 ぼすん。


 気付けばアルマの顔に、リューが使っていた枕が命中していた。

 “君子ー!”ユファは思ったが、何も言わなかった。

「むむう、やったなあ。現行犯逮捕してやろうか?」

「…どうぞ。おまえを安眠妨害罪で訴えてやる」

「はっ!そんな罪状はないね」

「プリン盗み食い罪よりはマシだと思うが」

 リューはいつにも増して不機嫌だった。
 “リュー、低血圧で寝起き悪いもんな”ユファは思ったが、もちろん言わなかった。

「なにおう。盗み食いは大罪だ!しかもプリン。ぷっちん付き」

「ぷっちんしたかっただけだろ」

「違わい!食べたかったの!プリン!」

「…何だか知らないけど、俺は食べてない」

「ぬう!この期に及んで戯言を。腹切ってプリン取り出して証拠にしてやろうか?」

「そんな事をしても無駄だ。胃液が証拠を隠滅してくれている」

「ということは…認めたな」

「調子を合わせただけだ」

「……。ちくしょー!本当は食べたんでしょ?でしょ?」

 しつこいアルマに、リューはげんなり。
 低い声で言った。

「食べてない。プリンくらいでいちいちうるさい。――失せろ」

「ふ…えっ…ぴゃー!」

 アルマは赤ん坊さながらに泣き出した。
 本当に。

 “君子!なにゆえ?”ユファは思ったが、当然言わなかった。
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