ときふるさと

□粛正す
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「まだ、痛む?」

「少し。けれど、時頼が守ってくれたゆえに、これだけで済んだ」

「……ごめん」

「話を聞いていた? 私は感謝しているの」

「だけど、兄上の言う通りだ。俺の役目はこの程度のものではない」

「時頼」

 里和がずいと顔を近づけた。
 時頼が慌てて少し身を引く。

「私が気にしていないのだから、気にするのはやめなさい」

 里和が真剣な瞳で時頼を覗き込んだが、時頼の表情は晴れなかった。

「俺、里和を襲った人達に報復してくる」

「やめて。復讐は何も生まない」

「なら、粛正する」

「……」

「連中は必ず繰り返す。叩くなら、今だ」

 里和が悲しげに目を伏せた。
 そんな里和を時頼は静かに見つめる。

「お願いだ。罪滅ぼしを、させて欲しい」

「……本当に、もう一度あると思う?」

「連中を生かしておく限り、何度でも。此度、奴らは端から命を狙ってはいなかった。次からは、命だ」

「……」

「恐らく目的を達成して、調子づいて酒盛りでもしている頃だろう」

「ゆえに叩くなら今、と?」

「ああ」

 里和が息を吐いた。

「……私は許しませぬ。いつもの様に」

「分かってる。俺の独断だ。事前の相談も、無かった」

「勿論。私は何も聞いておりませぬ。――有難う。時頼」

 時頼は言葉を返さず、ただ一度頷いて、そして立ち上がった。



 民家で盛り上がり続ける男達をよそに、女はじっと侵入者を見ていた。

 侵入者は体格からして若い男で、何をするでもなくじっと佇んでいた。
 その所為で酔った男達には気付かれない。
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