かけらことばのおんなのこ
□3
7ページ/14ページ
二人はそう言って、相変わらず変わっていない、のれんの向こうに消えた。
唐突に名前を出され、俺は面食らった。
初対面と何を話せと?
縋るように有田を見やると、駄目だ、あいつ双子ちゃんとガールズトークしてら。
「蘭チャンってー、なんで慶太クンと付き合おうと思ったの?」
「うーん、分かんない。当時は何かしらが良いと思ったんだろうけど…」
なんだとう?失礼な。
「あー分かるー!アタシも今、よく分かんなくなってきたもん」
「桃花ちゃん、彼氏いるの?」
「桃はね、超年上なの。今年30とかだっけ?」
「27だよぅ。エンコーと間違えられて困るのよー」
「えー、失礼だね」
いやいや有田、妥当だから。
「あの…、け、慶太くん?」
不意に隣から声がして、俺は慌てて振り返った。
気弱そうな少年が、こちらを見ている。
「あ、はい、なんでしょう」
「いや…あの、敬語は止めてほしいというか、」
「でも、受験生でしょ?俺は高校二年だから、後輩ってことになりますけど」
「あ、うん、でもおれ早生まれだから、年齢的には同い年なんだ。だから敬語はなしで」
「まあ、いいけど」
「自己紹介がまだだったよね。――川口泰都(かわぐちたいと)。高三で、17で、受験生だ」
「俺は西間慶太。高二でもうじき17歳。よろしく」
「よろしく…というか、実はおれ、君のこと知ってるんだ。壹と映に聞いたから」
「…ほんと俺有名人だな。そんなに珍しいのか?」
「うーん。想が気に入った人って、おれが知るかぎりじゃいないからね。複数の曜日に来るのも、君以外だと…おれぐらいじゃないかな」
泰都は心なしか照れくさそうに笑った。
「へえ、あんたもいくつか行ってんのか?」
「ああ。一応、この水曜日以外は火曜日と……金曜日に」
「すると、ノッカさんと……誰だったっけ」
「えと、…っ、…ティアラさん」
泰都は一度何かを言いかけ、言い直した。
「ああそうそう!マークが言ってた。俺行ったことないんだ。どんな感じ?」
「良い人だよ。ちょっとずれてるところあるけど、天然というか、癒し系というか」
「……ああ、うん、俺、店のこと聞いた」
「あ、そうなの?ごめん…えっとね、アットホームな感じ。すごく暖かくて、優しくて、でもちょっと不思議な感じで」