かけらことばのおんなのこ

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「昼どうすんの?」

 俺はてっきり今日も食べ物屋だと思っていたので、マークの件もあり昼食を取っていなかったのだ。
 もちろん、付き合って有田も食べていない。
 二人して、ここで食べる気満々だったのだ。

 というのに、ここってば手芸屋さん。
 布を食うわけにはいかない。

 有田はしかし、

「私ゼリー持ってるから、それでよくない?」

「出た。――十秒で飯済ますの、俺やだなあ」

「そんなの宣伝文句なんだから、食べる速さは自分で調節しなさいよ」

「…そうまでしてここにいたいのか?」

「うん。だって双子くんの性格、意外とツボだし。もっとお喋りしたい」

「……」

 なんてこったい。
 有田がお喋り好きなのをすっかり忘れていた。

「はあ…。しゃーない。ゼリー奢りな」

「はいはーい」

 俺は仕方なく、有田の意思を尊重してやることにした。


 俺たち以外の客が来たのは、有田が双子ーズと喋り続けること小一時間が経過したときだった。

 俺はすっかり暇を持て余していた。
 商品を上から下まで舐め回すように見、それに飽きて飲み干したゼリーの袋を膨らましたり萎ませたりして遊び、それにも飽きて、今は膨らませて栓をした袋で玉突きもどきをしていた。

 そんなタイミングで、客がやってきたのだった。

「あ…えっと、こんにちは」

 客は普通の奴だった。
 俺と同世代の少年。
 顔立ちは割といいのに、気弱そうな表情が残念な、地味そうな人だった。

「ああ、泰ちゃん!久しぶりー」

「最近全然来ないんだからー」

 壹と映がそう声をかけると、少年は気弱そうに笑った。

「ああ、ごめん。なかなか忙しくて」

「大変だねー。受験だもんね」

「何か出そうかー?」

「いいかなあ。ありがとう」

「はいはーい。ちょっと待っててねー」

「慶太さんとでもお話してなよー」
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