かけらことばのおんなのこ
□3
6ページ/14ページ
「昼どうすんの?」
俺はてっきり今日も食べ物屋だと思っていたので、マークの件もあり昼食を取っていなかったのだ。
もちろん、付き合って有田も食べていない。
二人して、ここで食べる気満々だったのだ。
というのに、ここってば手芸屋さん。
布を食うわけにはいかない。
有田はしかし、
「私ゼリー持ってるから、それでよくない?」
「出た。――十秒で飯済ますの、俺やだなあ」
「そんなの宣伝文句なんだから、食べる速さは自分で調節しなさいよ」
「…そうまでしてここにいたいのか?」
「うん。だって双子くんの性格、意外とツボだし。もっとお喋りしたい」
「……」
なんてこったい。
有田がお喋り好きなのをすっかり忘れていた。
「はあ…。しゃーない。ゼリー奢りな」
「はいはーい」
俺は仕方なく、有田の意思を尊重してやることにした。
俺たち以外の客が来たのは、有田が双子ーズと喋り続けること小一時間が経過したときだった。
俺はすっかり暇を持て余していた。
商品を上から下まで舐め回すように見、それに飽きて飲み干したゼリーの袋を膨らましたり萎ませたりして遊び、それにも飽きて、今は膨らませて栓をした袋で玉突きもどきをしていた。
そんなタイミングで、客がやってきたのだった。
「あ…えっと、こんにちは」
客は普通の奴だった。
俺と同世代の少年。
顔立ちは割といいのに、気弱そうな表情が残念な、地味そうな人だった。
「ああ、泰ちゃん!久しぶりー」
「最近全然来ないんだからー」
壹と映がそう声をかけると、少年は気弱そうに笑った。
「ああ、ごめん。なかなか忙しくて」
「大変だねー。受験だもんね」
「何か出そうかー?」
「いいかなあ。ありがとう」
「はいはーい。ちょっと待っててねー」
「慶太さんとでもお話してなよー」