かけらことばのおんなのこ
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「どうでもいい。俺は西間慶太だ。知ってるだろ?」
「ええ、存じておりますとも。想に大変気に入られてるそうで」
「そっちじゃない。有田のことだ。お前がやまとなんだろ?」
「はて。有田さん、ですか」
「すっとぼけるな。あとはぐらかすな。お前はやまとかって聞いてんだ」
小首を傾げる暫定やまとにむっとして、俺はつっけんどんに繰り返した。
「ああ、失礼致しました。確かに僕がやまとです。この店に僕がたった一人でいる時点で聞くまでもないことだと思いますが」
なんだこいつ、むかつく。
「ちなみに店のルールに則って、本名ではありません。ご了承を」
「ああ知ってるよ。あんたの本名なんか知りたくもないしな」
「おや。意外ですね。知りたくて仕方ないかと思っていましたが」
確定やまとはわざとらしくおどけてみせた。
まだ対面して数分も経っていないが断言できる。
俺こいつ嫌いだ。
「もういい。本題だ」
「宜しいので? まあ、そのうち喉から手が出るほど知りたくなるでしょうけど」
「うるさいな。誓ってならねえよ」
「そうです。では、どうぞ。始めてくださいませ」
「……。これ、あんただろ」
俺はプリクラをばんっとテーブルに叩きつけた。
やまとはどれどれ?と言わんばかりに大げさな身振りでプリクラを覗き込む。
「ええ」
「しらばっくれんな。マークが言ってたんだから……、ん? 認めた?」
「ええ。僕です。いつかの日曜に、蘭奈さんと出かけまして。そのときに撮りました」
有田の彼氏が俺だって、こいつ知っているんだろうか。
「そうなった経緯はなんだ」
「と、いいますと?」
「どっちが先に誘った? 付き合ってもいないくせにどうして二人で出かけた?」
やまとは問い詰める俺をしばらく眺めて、それから少し身を乗り出してきた。
「いいですか。僕があなたにお答えする義理はありません。自分が蘭奈さんの彼氏だからって、彼女のプライベートを何から何まで知る権利でもあると?」
「なっ」
「自分のプライベートは教えもしないくせに?」