かけらことばのおんなのこ
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「俺もそういう奴は苦手かもなー」
俺はぼそりと独りごちてから、よしっと気合いを入れ直して店に踏み込んで行った。
カラァン。
もはやお馴染みとなった鐘の音。
店内はバーらしく薄暗く、電灯は他の店では見たことのない小洒落たものとなっていた。
手前がテーブル席、奥がカウンターになっている。外観が長屋なことを度外視すれば、よくあるバーの風体だった。
この長屋は本当に何でもありなのかよ。
「さてと、店員はどこだ?」
バーなんだし、カウンターの奥にいるんだろう、と俺は店内を進んでいく。
すると案の定カウンターの奥に人影があって、
「……おい」
そいつはカウンターに肘をついて顎を乗せ、寝ていた。
「どこかで見たぞ、このパターン」
二日続けてねぼすけと来たか。
そして俺はその男を起こそうと大声を出すべく息を吸い込んで、――やめた。
カウンター席に着いて、男を目の前からじっくりと見る。
眠っていてもよく分かる整った目鼻立ちに、さっぱりとした短めの黒髪。
大人しそうな、人の良さそうな印象を受けた。
俺はごそごそと懐を漁ってプリクラを取り出すと、目の前の男と見比べた。
何となく、こいつで合ってると思う。
つまり、こいつが有田の好きな奴ってことか。
こいつが……。
などと俺が考えていると、突然、目の前の男ががくっと崩れ落ちた。
腕が頭を支えきれずバランスを崩したらしい。
男の頭が、ごつんと音を立てて机に激突した。
「ん」
それで男は目を覚まして、言葉になっていない声を上げながら身を起こした。
眠そうに目を瞬く。
俺は黙って男を観察した。
まつげ長いな。
「んん……寝ちゃったかな? 変な夢を見たな……」
男は俺には気づかず、これまたセンセイとキャラが被りすぎな独り言。
「今何時だろ……。おや、初めて見る方ですね。失礼致しました。ようこそいらっしゃいませ」
ただ状況把握力はセンセイより優れているらしい。
「ああ、どうも。勤務中に寝るな」
「これはこれは、失礼致しました。なにぶんお客様のほぼない店でして」